なんでも読書 ◆◇◆◆
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2007.12.02
Vol.2439
『夢の浮橋』
谷崎 潤一郎(たにざき じゅんいちろう)
出版:中公文庫 2007年
定価:780円(税込)
ISBN978-4-12-204913-0
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「夢の浮橋」は昭和三十四年に書かれた中篇小説。三
十四年と言いますと、谷崎の小説としては晩年の作。
この小説の特異な点は、初めて口述筆記で書かれた小
説ということ。高血圧で右手が麻痺してきた谷崎が、
また新しい試みをしたことで有名。その文章は、どう
考えても「口述」とは思えない流麗さ。いやしかし、
口述だからこその口説の良さが表れており、幾度も舌
で転がしたようななめらかさ。
母は、私が数えで六つの年に弟か妹に当る胎児を宿し
つつ、二十三歳で死んだ。そして二年余りを過ぎて、
第二の母を迎えた。私は生みの母の顔立ちを、はっき
りと思い出すことが出来ない。乳母に云わせると、世
にも美しい人であったと云うけれども、私はうりざね
顔のぽっちゃりとした丸顔の姿を思い出すだけである。
父は私を生んだお母さんが今も生きているように思う
ようにと望んだ。二番目の母も最初の母と同じ名前で
呼ばれた。私はそうしてこの母と最初の母とが区別が
つかなくなってくるのだった。父はやがて不治の病に
かかった。亡くなるとき、私と母を呼んで、この後の
ことを指示するのだった・・・・・
ストーリーのあらすじなんかさほど意味はないですね。
これはもう、音読してもらうほうがよほどその真価を
確かめられる小説です。谷崎の「母恋物語」などと言
われるそうですが、二人の母親が主人公の中で合体し、
どちらがどちらかわからなくなる過程もともかく、こ
の親子関係の何とも言えぬ幻想感は他の作家ではあり
得ない境地。
「夢の浮橋」は長さも手ごろなせいか、研究対象にな
りやすいようで、近代文学研究本がかなり出ているよ
うです。なん読は研究なんかには関心がありません。
どう面白いか、だけが重要なこと。じっくり口の中で
文章を読むというより語っていくと、この文章に酔う
ような心持がいたします。これはなんでしょう。この
中篇の後に随筆四編が加えてありますので、読み比べ
てください。明らかに文章が違います。
『お母ちゃんに逢いとござりましたら、一生懸命お佛
壇さんをお拝みやすのがよろしござります』
『あの人が来たら、お前は二度目のお母さんが来たと
思たらいかん』
「私は父が父自身のためばかりでなく、私のためにど
んなに深く考えてくれていたかを知ることが出来た」
『あてには糺さんちゅう子オがあったら、そいで結構
やね。こない年行てから、やゝ生みたいてなこと思わ
へんわ』
自在な京都言葉。根っからの京都人ではない谷崎なの
に、谷崎とくると、京都言葉の達人という印象があり
ますね。もちろん、小説を完成させるためにはそうと
うの手間ひまをかけて、手直ししたはずで、京都言葉
の写しは入念に行われたことでしょう。私は西日本の
出身なので、この京都言葉にはうっとりしますが、関
東以北の方には、このアクセントやニュアンスにピン
と来ない向きがあるかもしれません。それでも一端は
のぞけるものと思われます。
後半の随筆は、谷崎だからこその気ままな文章で、多
少雑といえば雑なのですが、自分の高血圧に対して、
現代から考えてみるとそうとう無茶苦茶な生活をして
いることがわかります。これでは治るはずがありませ
ん。「文壇昔ばなし」で登場する作家連中との付き合
いには、かなり笑えるところもあって、ほんと、谷崎
潤一郎って人は困った人。
2時間ちょうど
ジャカマッシャドナイセートイウネンアホンダレ
評価 ★★★★★
2007年12月2日日曜日
時価総額の差
今週のフォーカス
知っておきたい政治のカラクリ
文●三品 純
ついに日本企業が外資に食い荒らされる時代がやってくる!? 政府は4月13日、外国企業が日本に設立した子会社を介し、現金でなくても株式交換で企業買収ができる「三角合併」の諸条件が整ったことを公表した。本年5月に解禁日を迎え、いよいよ三角合併が活発化していく。
現ナマ不要の企業買収、“三角合併”が始まる
そもそも“三角合併”とは何か? とあるマネー誌編集長が解説する。
「例えば、三角合併によって海外企業X社が日本企業Z社を買収する場合以下のようなケースが考えられます。まず、Xは日本国内に100%子会社のY社を作ります。この子会社YがZ社を吸収合併しようとする際、親会社X社の株をZ社に交付するのです。これは事実上、X社がZ社を買収したことと同じです。これまではY社がZ社の株主に現金あるいは自社株を対価として交付しなければならなかったのが、親会社株でも良いことになったことです。これが“合併対価の柔軟化”(会社法 第749条)と呼ばれるもの。この扱いをめぐって政財界から異論が相次いだため、2006年の会社法施行後、1年間にわたって実施が引き伸ばしにされていましたが、今年の5月1日からスタートするわけです。これで買収に際して必ずしもキャッシュが必要ではなくなったので、買収のためにあえて多額の資金調達をしなくてもいい。これからますます海外企業による国内企業の買収が促進されると経営者たちは戦々恐々としています」
三角合併のイメージ図。海外企業Xは日本国内に100%子会社のY社を作る。この子会社YがZ社を吸収合併しようとする際、親会社X社の株をZ社に交付する。これまではY社の自社株とZ社の株を交換する必要があった
その結果、X社の100%子会社であるY社はZ社を吸収し、1つの会社になる。また、旧Z社の株主は、X社の株主となる
日本ではまるで“侵略者”の来襲のような印象がある三角合併をだが、その一方、アメリカでは活発に行われている。
昨年、話題になったgoogleのYou Tube買収も三角合併によるもの。また日本企業では90年代に京セラが三角合併を利用し、アメリカのエレクトロニクス企業AVXを自社株で買収したことがある。ただしこれはあくまで米国内での話。
時価総額の安さが泣き所
グローバルな企業買収が行われる際に、日本企業には弱点がある。それは収益力の低さなどに起因する時価総額の安さである。
一部上場企業の法務管理担当者はこんな見方をする。
「ライブドアのニッポン放送買収騒動があった頃、ライブドアの時価総額を見ると日立など伝統ある国内有数企業の時価総額とほぼ同じ額だったんです。確かに当時のライブドアは勢いがあったけど新興企業には違いない。要するに日本企業の時価総額は安すぎるのです。時価総額に比べて、株価の安い企業は注意すべき。具体的な業種を挙げるならば第一に鉄鋼メーカーなどがターゲットになるかも」
この言葉通り、日本企業と海外企業の時価総額の差は歴然。国内大手製薬メーカー・武田薬品工業の時価総額が約4兆円。これに対し米・ファイザー社は約30兆円。飲料大手のキリンは1兆円に対して、コカ・コーラ社は13兆円という具合だ。
「三角合併では時価総額の高い方が有利になります。より少ない株数で交換できるからです。このため国内企業は海外企業による買収を懸念しているのです。特に鉄鋼、製造といった体質が古い企業はなおさら脅威に感じているでしょうね。例えば新興のIT産業だとソフトバンクの時価総額は3.5兆円。これは住友金属、三菱重工業より高い数字です。もう従来のブランドや知名度では買収に太刀打ちできないのです」(証券会社投信担当者)。
となると時価総額向上や敵対的買収対策を検討しなければならないわけだ。ところがそう簡単にいかない。
「粉飾決算や株式分割で時価総額を上げようとすると、堀江(貴文)氏の二の舞になってしまう(笑)。また敵対的買収対策をやりすぎてしまえば、投資家に経営者の保身に映ってしまいます。 今のところ日清食品と明星食品、キリンビールとメルシャンなどのように同業種間での友好的買収で規模を拡大するのが最適な対策となっていますが、むしろ抜本的に日本の企業体質を変え、時価総額を高める努力をしなければいけません」(前出法務管理担当者)
株主に利があれば外資でもOK?
また日本の投資家や市場関係者の意識も変わっているようだ。日経新聞が2005年3月に経営者や市場関係者に行った「会社はだれのものか」というアンケートに対して、「会社は株主の物」という回答が9割を占めていた。「結局、投資家も経営者も外資、国内企業を問わず株主にメリットを与えた方が選ぶ、ということでしょう」(前出マネー誌編集長)。
三角合併を“脅威”と感じるか、逆に企業体質改善の“チャンス”とするか。いずれにしてもこの5月から国内企業各社は企業価値の向上を進めていかなければならない。
知っておきたい政治のカラクリ
文●三品 純
ついに日本企業が外資に食い荒らされる時代がやってくる!? 政府は4月13日、外国企業が日本に設立した子会社を介し、現金でなくても株式交換で企業買収ができる「三角合併」の諸条件が整ったことを公表した。本年5月に解禁日を迎え、いよいよ三角合併が活発化していく。
現ナマ不要の企業買収、“三角合併”が始まる
そもそも“三角合併”とは何か? とあるマネー誌編集長が解説する。
「例えば、三角合併によって海外企業X社が日本企業Z社を買収する場合以下のようなケースが考えられます。まず、Xは日本国内に100%子会社のY社を作ります。この子会社YがZ社を吸収合併しようとする際、親会社X社の株をZ社に交付するのです。これは事実上、X社がZ社を買収したことと同じです。これまではY社がZ社の株主に現金あるいは自社株を対価として交付しなければならなかったのが、親会社株でも良いことになったことです。これが“合併対価の柔軟化”(会社法 第749条)と呼ばれるもの。この扱いをめぐって政財界から異論が相次いだため、2006年の会社法施行後、1年間にわたって実施が引き伸ばしにされていましたが、今年の5月1日からスタートするわけです。これで買収に際して必ずしもキャッシュが必要ではなくなったので、買収のためにあえて多額の資金調達をしなくてもいい。これからますます海外企業による国内企業の買収が促進されると経営者たちは戦々恐々としています」
三角合併のイメージ図。海外企業Xは日本国内に100%子会社のY社を作る。この子会社YがZ社を吸収合併しようとする際、親会社X社の株をZ社に交付する。これまではY社の自社株とZ社の株を交換する必要があった
その結果、X社の100%子会社であるY社はZ社を吸収し、1つの会社になる。また、旧Z社の株主は、X社の株主となる
日本ではまるで“侵略者”の来襲のような印象がある三角合併をだが、その一方、アメリカでは活発に行われている。
昨年、話題になったgoogleのYou Tube買収も三角合併によるもの。また日本企業では90年代に京セラが三角合併を利用し、アメリカのエレクトロニクス企業AVXを自社株で買収したことがある。ただしこれはあくまで米国内での話。
時価総額の安さが泣き所
グローバルな企業買収が行われる際に、日本企業には弱点がある。それは収益力の低さなどに起因する時価総額の安さである。
一部上場企業の法務管理担当者はこんな見方をする。
「ライブドアのニッポン放送買収騒動があった頃、ライブドアの時価総額を見ると日立など伝統ある国内有数企業の時価総額とほぼ同じ額だったんです。確かに当時のライブドアは勢いがあったけど新興企業には違いない。要するに日本企業の時価総額は安すぎるのです。時価総額に比べて、株価の安い企業は注意すべき。具体的な業種を挙げるならば第一に鉄鋼メーカーなどがターゲットになるかも」
この言葉通り、日本企業と海外企業の時価総額の差は歴然。国内大手製薬メーカー・武田薬品工業の時価総額が約4兆円。これに対し米・ファイザー社は約30兆円。飲料大手のキリンは1兆円に対して、コカ・コーラ社は13兆円という具合だ。
「三角合併では時価総額の高い方が有利になります。より少ない株数で交換できるからです。このため国内企業は海外企業による買収を懸念しているのです。特に鉄鋼、製造といった体質が古い企業はなおさら脅威に感じているでしょうね。例えば新興のIT産業だとソフトバンクの時価総額は3.5兆円。これは住友金属、三菱重工業より高い数字です。もう従来のブランドや知名度では買収に太刀打ちできないのです」(証券会社投信担当者)。
となると時価総額向上や敵対的買収対策を検討しなければならないわけだ。ところがそう簡単にいかない。
「粉飾決算や株式分割で時価総額を上げようとすると、堀江(貴文)氏の二の舞になってしまう(笑)。また敵対的買収対策をやりすぎてしまえば、投資家に経営者の保身に映ってしまいます。 今のところ日清食品と明星食品、キリンビールとメルシャンなどのように同業種間での友好的買収で規模を拡大するのが最適な対策となっていますが、むしろ抜本的に日本の企業体質を変え、時価総額を高める努力をしなければいけません」(前出法務管理担当者)
株主に利があれば外資でもOK?
また日本の投資家や市場関係者の意識も変わっているようだ。日経新聞が2005年3月に経営者や市場関係者に行った「会社はだれのものか」というアンケートに対して、「会社は株主の物」という回答が9割を占めていた。「結局、投資家も経営者も外資、国内企業を問わず株主にメリットを与えた方が選ぶ、ということでしょう」(前出マネー誌編集長)。
三角合併を“脅威”と感じるか、逆に企業体質改善の“チャンス”とするか。いずれにしてもこの5月から国内企業各社は企業価値の向上を進めていかなければならない。
「三角合併」制度が解禁され、外国企業が自社株により在日子会社に日本企業を吸収合併させることが可能

研究員の眼
ユニークな視点で時代を読み解く
2007年06月26日
新しいパラダイムM&A時代の到来
津田 博史
ここ最近、M&Aに関連した記事が新聞の紙面を賑わせている。5月1日に国際的な企業再編に利用できる「三角合併」制度が解禁され、外国企業が自社株により在日子会社に日本企業を吸収合併させることが可能になったことや、米系投資ファンドのアクティビスト・シェアホルダーが日本において活動を活発化しているなど、記事に事欠かないからである。
アクティビスト・シェアホルダーがどのような日本企業を投資先として選択しているかに興味を持ち、統計的手法を用いて分析してみた。具体的には、日本のアクティビスト・シェアホルダーとして世間を騒がせた村上ファンドが投資した上場企業の財務的な特徴を調べた結果、(1)株主資本に対して負債比率が低い、(2)現金が潤沢で、資本の活用効率が低い、(3)株式市場での評価(PBR)が低く、時価総額が小さい、という企業像が浮かんできた。
そこで、統計的に有意な財務指標を用いて、上場企業約2000社のM&Aリスク量を算出したところ、スティール・パートナーズなど他のアクティビスト・シェアホルダーが投資している企業群も、概ねM&Aリスク量の上位にランキングされていることがわかった。要するに、現金が潤沢で借金が少なく、倒産リスクが小さいにも拘わらず、資本を十分に活用せず、経営効率が悪く、時価総額が小さい企業群をアクティビスト・シェアホルダーが主として投資ターゲットにしているのである。
従って、アクティビスト・シェアホルダーのターゲットから逃れるためには、上場企業は、資本を効率よく活用して収益を増大させ、投資家の評価である株価を高めて、時価総額を大きくする必要がある。
しかしながら、経営努力の結果、時価総額が大きくなり、アクティビスト・シェアホルダーから狙われるリスクが低下しても、企業は安心できない。投資家の評価が高まるということは、内外の巨大企業から見ても魅力的な企業となっているわけであり、マーケットシェアーの拡大や収益源の取り込みのために、M&Aのターゲットにされるリスクは高まる。また、仮に買収防衛策などによりM&Aを防げたとしても、ライバル企業がM&Aによって巨大企業に成長すれば、一気に弱者の地位に陥るケースもありうるのである。
現在、世界市場の一体化の潮流の中で、M&Aにより企業再編が進展し、少数の寡占企業が市場支配力をもつ時代へと向かいつつある。これまでの時代と異なり、新しいパラダイムのM&A時代にあっては、経営戦略の一環としてM&Aをいかに活用するかが企業にとって成長の鍵となる。企業は、M&Aされる恐怖にただ慄くのではなく、自らもM&Aを実行し、M&A後も企業文化や労働条件など様々な面における経営課題を克服し、グローバルな優良企業へと成長していく必要があろう。
司馬遼太郎の「国盗り物語」で、戦国時代の覇者となった織田信長がまだ弱小の頃、圧倒的な兵力差がある今川軍に攻められる前夜の戦略会議で、籠城論を主張する重臣の前で、「古来、城を恃んで戦った者にろくな末路がなく、ほとんどが破れている。・・・(中略)・・・おれの心はすでに出るということに決している、おれと志を一つにする者はおれとともに駈けよ。」と言うくだりがある。要するに、守りの姿勢でいては、勝てずに滅ぶということである。信長が打って出て、桶狭間の戦いで今川軍に勝利したのは、史実である。
昨今、スポーツの世界では、ワールドクラスのプレイヤーとして成功している日本人選手も多い。ビジネスの世界においても、今後の地球規模での企業間競争に果敢に打って出て、生き残れる企業へと導けるワールドクラスの力量を持つ日本人経営者の続出を期待したい。
インドで小さなくず鉄工場を経営していたラクシュミ・ミタル

橋本裕の日記のなんでも研究室の50番目の
企業合併・買収(M&A)入門より
http://home.owari.ne.jp/~fukuzawa/index.html
ミタル帝国の脅威
橋本日記 2007,5,13
5月1日から株式交換による企業買収(三角合併)が日本でも解禁され、いよいよ本格的な買収の時代に入った。外国企業が日本企業を買収するとき、これからはお金は必要ではない。自社の株券を印刷して、買収先の株主にこれとの交換をもちかければよい。株主はもうかると思えば、株券の交換に応じる。
三角合併はお金を介さないという意味で、昔の物々交換に似ている。ただ交換されるものが、物ではなく株券だというところが大きな違いである。ミタル製鉄は去年6月27日に世界第二位の鉄鋼メーカー・アルセロールを買収した。ラクシュミ・ミタル社長は1月に「株を高値で買い取る」と一方的に宣言して、わずか半年で買収を成功させた。
ミタルがヘッジファンドなどを介してアルセロール買収に要した資金は数兆円だといわれているが、これも実際にそれだけの現金が動いたわけではない。自社の株券をそれだけ手放しただけである。しかもそのあと企業合併することでミタル社の株はさらに上がり、その時価総額は今や6兆円で、世界第二位の新日鉄の2倍以上ある。
ラクシュミ・ミタルはインドで小さなくず鉄工場を経営していた。1976年に創業されたミタル・スチールはこの数年でM&A(合併・買収)を重ねて成長し、2005年には米大手ISGを株式交換の手法で買収し、アルセロール(本社ルクセンブルク)を抜いて世界トップに躍り出た。さらにアルセロールまでも買収し、彼は今や世界の25ケ国に製鉄工場を持つ現代の鉄鋼王である。一代で4兆円もの世界有数の資産を築き上げ、娘の結婚式もベルサイユ宮殿を借り切って行われたという。その費用は75億円だったそうだ。
鉄鋼王と呼ばれながら、彼自身はじつは一つも製鉄所を作っていない。すべて買収したものだ。その手法は、買収によって自社の株価を上げ、これをてこにさらなる企業買収をしかけるというものだ。たとえば、アルセロール買収を宣言した2006年1月27日のミタル社の株式時価総額は2兆3886億円である。それがアルセロール買収後の11月1日は二倍以上の5兆9979億円にまでふくれあがっている。わずか1年も満たないうちに、ミタルはこうして巨人化した。
現在世界一の技術力を持っているのは、明治以来100年以上の歴史を誇る日本の新日鉄である。ミタル社が開発した特許はわずかに38件にすぎない。ところが新日鉄は1038件もの特許を持っている。この新日鉄の高度な先端技術が通常の鋼板よりも4倍も強度を持つというハイテンなどの驚異的高品質の鋼板を生み出し、日本の自動車産業の繁栄を支えてきた。
新日鉄はこの最高レベルの技術をアルセロールに供与してきた。アルセロールがヨーロッパの自動車産業に限り販売を認めるという厳しい条件付である。これによって、ヨーロッパに進出した日本の自動車工場は高品質の鋼板を供給されていたわけである。アルセロールがミタルと合併されても、日本の自動車産業はこの構図に依存するしかない。
ミタルはアルセロール時代に新日鉄から供与された技術で鋼板を作り続け、これをヨーロッパの自動車産業に輸出している。しかも、この鋼板をヨーロッパ以外の工場で使用したいとしている。新日鉄の三村明夫社長はミタル氏とのトップ会談でこれを拒否したが、これによってミタルの新日鉄買収がいよいよ現実味を帯びてきた。
三村社長も「ミタル帝国が完成するのは新日鉄が買収されたときでしょうね」と、最近放送されたNHKの番組で述べていた。さらに、「短期的な経営を狙った買収や技術の獲得を狙った敵対的買収に対しては、非常に危険だと思います」とも述べている。高い技術を持つ魅力的な企業であればあるだけ、買収されるリスクが高まるわけだが、三村社長はこうしたマネー万能の論理を批判して、去年10月にアルゼンチンで行われた国際鉄鋼会議でこう演説している。
<鉄鋼業界の再編は鉄に携わる者の手で行わなければならない。ヘッジファンドに代表されるマネーの論理によるべきではない。彼らは短期の利益だけを追求し、企業の価値を破壊してしまうからだ>
三村社長は徹底抗戦の構えだが、最近、タミル社長は極秘に日本を訪れ、日本の自動車メーカーのトップと会談している。国際化した日本の自動車産業が新日鉄を見捨てる日も近いかもしれない。新日鉄の社内の企業買収研究班による分析資料には、ミタルによる株式交換による敵対的買収を仕掛けられた場合、「安全な防御策は存在しない」と記されている。新日鉄の看板が塗り替えられる日が近づいている。
なお、「三角合併」のしくみや、マネー資本主義の脅威については、すでに「企業合併・買収(M&A)入門」でくわしく述べ、「高い技術力をもつ日本の企業はもっと危機感をもつべきだ」と警鐘を鳴らした。残念ながら、2年前に私が懸念した通りのことが現実に起こりつつあるようだ。
なんでも研究室
引越しは静かだが大変だった。
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