2007年11月28日水曜日

みんな休暇を取ってしまうということ

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◆◆◇◆  なんでも読書   ◆◇◆◆
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2007.11.28
Vol.2435                


『消えた消防車』

THE FIRE ENGINE THAT DISAPPEARED    






マイ・シューヴァル & ペール・ヴァールー
高見浩 訳
出版:角川文庫 1984年
定価:693円(税込)
ISBN4-04-252003-0


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警察小説の傑作、マルティン・ベック警部シリーズも
絶版になって久しく、手に入れるには古書店しかあり
ません。これはちょうど十作ですので、初めの「ロゼ
アンナ」から読むのをお勧めします。本書は第五作目
で、シリーズ中でも私の好きな一作。他にも「唾棄す
べき男」「テロリスト」などの傑作があるのですが、
当初マルティン・ベックの単独行動を描いているよう
な小説だったのが、刑事たちの群像を描くようになっ
た最初の作品ではないかと思われ、その意味でも記念
碑的な作品。

アパートで一人の男が死んでいた。自殺であることは
明白だったのだが、電話のそばのメモ用紙に「マルテ
ィン・ベック」となぜか書かれていた。ラーソン警部
が監視をしていた古いアパートが突然爆発炎上した。
ラーソンは英雄的な救助活動をしたのだが、当の見張
りの対象だった男マルムは死んでしまった。

マルムは車泥棒の疑いで逮捕されたものの、一時釈放
され、共犯と見られる男が訪れるのを警察は見張って
いたのだった。しかし、マルムは爆発が起こる前にす
でに死んでいたのが突き止められ、さらにマルムのベ
ッドに爆薬が仕掛けられてもいた。アパートに出入り
したものの中に怪しげな人物はいない。迷宮入りする
かと思われた事件だが、その後遠く離れた町マルメで、
海岸に沈められた車の中から死体が発見され・・・・

第三作から登場するラーソン警部が大活躍するプロロ
ーグ。主人公のベックはどうやら家庭が面白くないよ
うで、十七歳の娘から「どうして家を出ないの?」と
言われたりしています。なるべく家に帰らないように
している辺りに、仕事一辺倒の刑事稼業ゆえの家庭崩
壊の影が忍び寄ってきている。相棒のコルべり警部の
幸せな新婚生活とじつに対照的。

ここでは独特の行動で読者に強烈な印象を残す、メラ
ンデル警部の家庭生活も出てきて、どことなくおかし
味を感じずにはいられません。そのほか、ラーソンの
優雅な独身生活、ルン警部の息子の「消えた消防車」
などなど、それぞれの刑事の家庭が描かれているのも
大特徴。

「それはどう見ても、きちんとした死に様にはほど遠
かった」

『あの男が関係していたのは自動車泥棒だった』

「あらゆる証拠から推して、彼の部屋が出火点だった
ことは確かなのに、彼がそれに気づいて逃げだそうと
した形跡はまるで見当たらない」

『どうも気に入らんな、この火事は』

自動車泥棒を追うという、意外に地味なストーリーな
がら、その当の犯人がいっこうに捕まりません。そう
こうしているうちにみんな死んでしまう。そこで登場
するのが、マルメ警察のモーンソン警部。以前にも登
場し、主役を食うほどの存在感のモーンソン。ここで
も名刑事ぶりを派手に披露しています。なんと言って
も、実際の事件の「消えた消防車」とおもちゃの「消
えた消防車」がダブっているのが愉快。

再読した本書で私が今回強烈に印象付けられたのが、
みんな休暇を取ってしまうということ。事件の渦中だ
ろうがなんだろうが、主人公のベックもお休みだけは
しっかり取るんですね。モーンソンなんかはそれこそ
事件の鍵を握っているのに、一ヶ月もギリシャ旅行を
してしまう。事件となれば不眠不休の日本の警察小説
とこの辺りが全然違います。推理ファンなら必読です
し、大人のユーモアがしみじみ味わえますし、一種の
社会派小説としても読めます。二度読んでも大満足。

3時間45分


飼い主に訓練学校行けと言う


評価  ★★★★★